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qinggengcai

国語の時間 (。-`ω´-)ンー 4/4


「~したときの、
チイちゃんの気持ちを答えなさい」
そんな質問を、真に受けてはならない。
それが国語の時間のルールになった。

    他人の気持ちが分からない僕は、
    その問いのままでは、答えることができない。
    できないことをしようとしても仕方がないから、
    問いを変えることになる。

「~したときの、
チイちゃんの気持ちを答えなさい。
―― この質問にみんなが、
どう答えるのかを考えなさい」

    僕がどう思っているか、
    そんなことは、実はどうでもいいことで、
    「みんなが思う」ことを言い当てれば、
    それが正解とみなされる。

さらには、先生が、つまり大人が、
「みんなが思う」と思っていることを、
僕が言い当てれば正解になる。
それが国語の時間のルールだと知った。

    そして、「みんなが思う」と思っていることが、
    自分の気持ちになり、
    「みんなが思う」と思っていることが、
    他人の気持ちになると知った。

みんなと違うことは間違いであり、
たとえ「みんなちがって、みんないい」と教えられても、
その「みんなちがって、みんないい」に違うことは許されない。
だいじょうぶ、大人は誰もそれを疑問に思わないから。

    大人になるということは、
    自分の言葉を失うことなのだろう。
    だったら、早く言葉を失いたかった。
    でないと、僕はいつまでも間違える。



大人になって久しい今でも、
僕の中の子どもは、
大人の僕の思惑を超えて、
大人の僕に問いかける。

    自分の言葉を持っていない者が、
    他人の言葉を間違いと言うのか。



    160229.png



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  1. 2016年02月29日 20:33 |
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国語の時間 (。-`ω´-)ンー 3/4


    僕が馬鹿だとしても、
    誰にも気づかれることはなかった。
    その能力の不備をごまかすことは、
    とても容易(たやす)いことだった。

僕が能力を欠いていること、
つまり、気持ちが僕に伝わっていないことは、
誰も前提にすることはなかったから、
僕は、僕の能力の欠如を隠すだけでよかった。

    僕たちは、伝わっていることを前提にする。
    それは前提だから、確認はされない。
    僕は、伝わっているふりさえする必要はなく、
    何もせずに、黙っていればよかった。



国語の時間では、例えば、
楽しかった、悲しかった、くやしかった、
そんな単純な気持ちを文脈に照らして、
機械的に当てはめればよかった。

    何を見ているのか、何が伝わったのか、
    それらは簡単に確認し合える。
    どんなふうに見えるのか、
    どんなふうに伝わったのか、

そんな確認は、僕だけでなく、
誰にとっても容易ではないらしい。
どんな楽しさなのか、どんな悲しさなのか、
それを問われると、僕はもうごまかせなくなるけれど。

    告白しよう。
    僕は、今でも、他人の気持ちなんて分からない。



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  1. 2016年02月29日 20:31 |
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国語の時間 (。-`ω´-)ンー 2/4


僕がどう思うかについて、
僕が正直に答えれば、
それがどんな答であったとしても、
間違いが生じる余地はない。

    間違いがあるとすれば、
    自分を曲げて、他人に沿わせるような、
    不正直さにそれがある。
    僕に理解できなくて当然だろう。



「~したときの、
チイちゃんの気持ちを答えなさい」
そんな出題には、途方に暮れた。
僕には、僕以外の誰の気持ちも分からない。

    文章から気持ちを読み取る能力を、
    僕は備えていなかった。
    それは、視力や聴力のように、
    普通に備わっている能力なのだろうか。

間違えるということは、見間違えるとか、
聞き間違えるとか、いずれにしても、
見たり聞いたりする能力を、
備えていることが前提になる。

    どんなに意識を集中させてみても、
    僕には、誰かの気持ちが伝わった経験がない。
    気持ちを読み間違えるのではなく、
    その前に、伝わることの感じ方を知らない。

何が見えるか、何が聞こえるか、
そんなことは、普段は誰にも訊かれない。
何の気持ちが伝わるか、
なぜその能力だけが問われるのか。

    分からなさに苦しくなる。
    僕は、馬鹿なのだろうか。



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  1. 2016年02月29日 12:14 |
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国語の時間 (。-`ω´-)ンー 1/4


国語の時間は、わけが分からなかった。
「このお話を読んで、
チイちゃんは、どんな子どもだと思いましたか?」
そんな捉えどころのない質問に困っていた。

    「チイちゃんは(職業に喩えると)、
    パン屋さんだと思いました」
    要領を得ない僕の答は、それでも、
    僕の受けた印象を正直に表わしたものだった。

先生は、残念そうに笑っていた。
それは、疎ましさが混じった笑みだった。
僕は、何が起きているのかを理解できずに、
立ち尽くしていたけれど、

    やがて、笑いの意味を理解した。
    僕は、間違えていたのだろうか。



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  1. 2016年02月28日 21:31 |
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空を飛ぶ(´・ω・`) 8/8


        空が世の中の側にあるのなら、
        僕たちはすでに飛んでいる。

        気づいたときには、飛んでいる。
        あるいは、飛んでいることにも気づかない。


例えば、女子なら、例外なく、
「モテ」や「愛され」の空を飛ぶ。

服や、メイクや、ダイエットの翼で、
力が尽きるまで飛ばされる。


        他人の欲望を満たす自分とは、
        他人に羨ましがられる自分である。

        そのためには、他人と群れ合って、
        互いに同じ空を飛ばなければならない。


偏差の端っこにいない限り、
差異などないに等しいが、

みんなが同じ翼で、同じ空を飛ぶのなら、
相似形は小さな差異を際立たせる。


        みんなで、「自分は違う」と思っていることにさえ、
        相似形を見出すことができる。

        僕たちは、途方もなく大きな空の、
        きっと、極端に小さな部分しか飛ぶことができない。


        どの空も、自分にそっくりの、
        くだらない他人でいっぱいだ。



        160222.jpg
        Da Vinci's Demons



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  1. 2016年02月27日 16:41 |
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空を飛ぶ(´・ω・`) 7/x


オリオン座の左上の1等星、
ベテルギウスの直径が、

太陽の直系の、
1,000倍と教わったとき、

途方もなく大きいと思ったのは、
ベテルギウスではなく、

空だった。



        160219c.jpg
        Da Vinci's Demons



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  1. 2016年02月25日 12:04 |
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空を飛ぶ(´・ω・`) 6/x


空は、空いっぱいに空を映して、
僕の視界は、空いっぱいの空を収める。

目に映るそのすべてが、
目には見えない消失点になる。

遠くにあるものは小さくなって、
点になって消えるのに、

空はなぜ消え失せないのだろう。



        160219f.jpg
        Da Vinci's Demons



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  1. 2016年02月22日 21:24 |
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空を飛ぶ(´・ω・`) 5/x


うまく飛べそうにないときは、
苦し紛れに逆転させる。

空が世の中の側にあるのなら、
僕たちはすでに飛んでいる。


僕たちは、飛ぶことを考えなくてもいい。
逆に、飛ばないことを考える。

僕たちは、すでに飛んでいるから、
飛びたい空は選べない。

すでに飛んでいる空の中から、
飛びたくない空を選んでいる。

飛びたくない空を選ぶことで、
飛びたい空が現れる。


選べるのは飛びたくない空だけで、
つまり、飛ぶためではなく、

飛ばないために、空がある。



        160219g.jpg
        Da Vinci's Demons



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  1. 2016年02月21日 21:12 |
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空を飛ぶ(´・ω・`) 4/x


僕の欲望は「世の中」の欲望であり、
欲望は言語活動の特性で、
言語活動も「世の中」のものである。

そのようにしか生きられない、
その形容は「宿命」の謂いになる。
「宿命」とは、「環境」のことだろうか。

「世の中」は変えられないけれど、
「環境」は変えられるらしい。
「環境」とは、変更可能な「世の中」か。

「環境」が変わらなくても、
気の持ちようで変えられるらしい。
「環境」は、僕の「心がけ」ひとつか。


僕の空は、
僕の「心がけ」の、
変更可能な「世の中」への投影か。

空が小さくなってきた。
嘘にまみれた翼が重い。
気づいてしまえば飛べなくなる。

飛行機だって、
自分が金属の塊だと気づいたら、
飛べる気がしなくなるだろう。



        160219a.jpg
        Da Vinci's Demons



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  1. 2016年02月21日 21:09 |
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空を飛ぶ(´・ω・`) 3/x


翼は退化して飛べなくなった。

脚はひざを曲げたまま固定され、
足首から下だけで歩く。

最も過酷な場所を選び、
子育ては最も過酷な時季に行う。

夏でも氷点下を超えることがない南極大陸は、
冬には沿岸部でも-40℃を下回る。


        空を飛ぶこともできただろう。

        温暖な沿岸や湖沼で、
        暮らすこともできただろう。

        しかし、ペンギンは、
        ペンギン以外にはなれなかった。


ほかにも方法はあった。

僕たちは、過去にあったはずの、
様々な可能性に想いを巡らすことができる。

しかし、実際には、
たったひとつの生き方しかできない。


        そのようにしか生きられなかった。

        他者からどんな意味を与えられても、
        どう評価されても、どう裁かれても。

        自己の実存を他者に、
        譲り渡すことができない自己が言う。


        僕には、僕の空だけが真実である。



        160219b.jpg
        Da Vinci's Demons



        ……
        私はかつて正しかったし、今もなお正しい。
        いつも、私は正しいのだ。
        私はこのように生きたが、また別の風にも生きられるだろう。
        私はこれをして、あれをしなかった。
        こんなことはしなかったが、別なことはした。
        そして、その後は?
        私はまるで、あの瞬間、自分の正当さを証明されるあの夜明けを、
        ずうっと待ち続けていたようだった。
        ……
        『異邦人』/アルベール・カミュ 著、窪田啓作 訳、
         1954、新潮文庫



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  1. 2016年02月20日 21:54 |
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