娚(おとこ)の一生 1-3/西炯子
2009-10、小学館

長い間、でたらめな夢を、
見ていなかった気がする。
ここでいう夢は、眠っているときに、
一夜限り、頭の中で上映される夢のこと。
見たこと、聞いたこと、体験したことを、
ランダムに浮上させて、
無理につじつまを合わせたような、
ちぐはぐなプロットを追いかける。
破綻した、不条理なプロットでも、
そのまま受容できるのは、
僕たちの度量とも言えるし、
受容するしかない無力さとも言える。
僕たちは、よくあり得ることも、
到底あり得ないことも、
分け隔てなく受け容れて、
寛大であると同時に、ふがいない。
不条理は、不都合な結果に対してだけ、
言い放たれる捨て台詞ではない。
できないことは、流行りの歌や、
小説や、漫画や、映画でやってみせて、
できそうなことに仕向けられ、
僕たちは、夢を体験して、
あり得ない方を選びたくなり、
できそうにない側に賭けてみたくなる。
そして、明日から、また、
何もない日々が始まるとしても、
束の間の、
できないことは、美しき哉。
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- 2019年02月26日 12:04 |
- 馬鹿
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姉の結婚 1-8/西炯子
2011-14、小学館

想像力でかたち作るよりも先に、
漫画なら ―― 、即物的な受容に陥り、
プロットに運ばれるに任せたまま、
主観なら ―― 、仮想現実の後を追い、
でたらめな夢から醒めれば、
現実なら ―― 、なお、夢のように儚く、
束の間の、
夢より夢に、迷いぬる哉。
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- 2019年02月24日 12:51 |
- 馬鹿
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僕たちは、日々、様々な経験をするけれど、
身につかないことは憶えていられなくて、
身についたことを記憶に留める。
記憶しているということが、
身についたということであり、
身についたことを経験と呼ぶ。
僕たちは、様々な経験の中から、
身についたことだけを取り上げて、
経験を再定義することができる。
経験したから身についたのではない。
すべての経験が身につくわけではない。
身についたのは、思考を巡らせたからである。
経験ということは、
たしかに人間には必要だと思うのですが、
どんなに経験しても、
人間というものはその経験を想像力のなかで造形できなかったら
経験にならないわけです。
―― 「反劇的人間」/安部公房 著、1979、中公文庫
どんな経験をしても、まだ言葉が与えられていないうちは、
経験を身につけることができない。
だから、経験にとって最も邪魔になるのは、
考えないことである。
考えた形跡がないということは、自らの経験に基づいて、
語れていないということだ。
僕たちは、日々、様々な経験をするけれど、
それで、また、何も経験しなかった日々になる。
すばらしい日々だ 力あふれ すべてを捨てて僕は生きてる
君は僕を忘れるから その頃にはすぐに君に会いに行ける
―― すばらしい日々/ユニコーン
―― 奥田民生 作詞作曲、1993、Sony Records
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- 2019年02月23日 20:04 |
- 馬鹿
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>テキストから始まったと考えれば、
>新しいフォーマットに移った。
テキストから漫画、つまり画像へ、
そして、テレビドラマや映画、
つまり、音声も加わった動画へ。
僕が大好きなエロでいうと、
エロ小説とエロ漫画とエロ動画。
そのうち、リアルでの経験がなければ、
想像力が追いつかないのが、
テキストのエロ小説だろう。
でも、僕たちには想像力はいらない。
80年代になって、
ビデオデッキが普及して、
僕たちには、仮想現実が先験的だった。
経験に先立ってエロ動画があった。
それがどういうことなのか、
僕には分からないけれど、
無粋な、粗いモザイクで、
目を見開いても、細めても、
いちばん見たいところを、
見ることができなかったのは、
せめてもの救いと思っている。

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- 2019年02月22日 00:12 |
- 馬鹿
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「電車男」は、15年前、
2004年に、ネットの掲示板から始まった。
同年、小説になり、
続いて、漫画やテレビドラマや映画になった。
ネットから始まったと考えれば、
古いメディアに移り、
テキストから始まったと考えれば、
新しいフォーマットに移った。
「iPhone 3G」の発売は、2008年。
スマホは、新しい何かを得たわけではなく、
古い何かを捨てたわけでもない。
「電車男」のメディア展開と変わらない。
スマホは、ネットも小説も漫画もテレビも映画も、
テキストも画像も動画も、
カメラもビデオもゲームも、
オーディオプレーヤーも地図も電話も、
手のひらに収める魔法である。
ただし、新しい何かを得たわけではなく、
古い何かを捨てたわけでもない。

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- 2019年02月21日 12:03 |
- 馬鹿
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ただ好意だけで成り立っているような、
異なる世界があったとして、
僕は、そんな世界に生まれなくてよかったと、
思うことができるかどうか。
今、僕が生きている世界に、
悪意や、敵意や、反感があっても、
僕は、この世界に生まれてよかったと、
思うことができるかどうか。
ただ出会いだけが続くような、
異なる世界があったとして、
僕は、そんな世界に生まれなくてよかったと、
思うことができるかどうか。
今、僕が生きている世界に、
悲しくて、苦しい別れがあっても、
僕は、この世界に生まれてよかったと、
思うことができるかどうか。
ただ楽しいことばかりが連なった、
異なる世界があったとして、
僕は、そんな世界に生まれなくてよかったと、
思うことができるかどうか。
今、僕が生きている世界の、
人知れぬ苦労や、淋しさの中で、
僕は、この世界に生まれてよかったと、
思うことができるかどうか。
ただ報われることばかりが繰り返される、
異なる世界があったとして、
僕は、そんな世界に生まれなくてよかったと、
思うことができるかどうか。
今、僕が生きている世界で、
がんばって、だめで、悩んで、
汗を流しても、できないことはできなくて、
涙をこらえていても、
僕は、この世界に生まれてよかったと、
思うことができるかどうか。
毎日の人知れぬ苦労や淋しみも無く
ただ楽しいことばかりだったら
愛なんて知らずに済んだのにな
―― 花束を君に/宇多田ヒカル
―― 宇多田ヒカル 作詞作曲、2016、Virgin Music
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- 2019年02月19日 00:03 |
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ところで、僕の毎日は、
僕の思いや行いだけで、
構成されているわけではない。
好意にせよ、悪意にせよ、
僕への関わりを持つすべての人たちの、
思いや行いが織り込まれている。
嫌うことさえしたくない、というのは、
その中から、悪意や敵意や反感だけを、
僕が恣意的に切り分けて、
最初からなかったことにしたいという、
不可能な欲求である。
すべては、すでに織り込まれて不可分であり、
できないことをすることはできない。
それぞれ別々の人 好きになっても
あなた残してくれた すべて忘れないで
誰かを愛せるように
―― ひだまりの詩/Le Couple
―― 水野幸代 作詞、日向敏文 作曲、1997、PONY CANYON
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- 2019年02月18日 00:14 |
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ともあれ、嫌いなものごとは、
考え続けていたくない。
考え続けても苦しくてつらいだけだから、
それは嫌いなものごとになる。
嫌いな人のことは、
考え続けていたくない。
では、嫌いな人というのは、実は、
嫌うことさえしたくない人である。
言葉が通じなくて、
問いが共有されなくて、
僕が何を嫌っているのか、
それさえも分かってもらえなくて、
嫌い、という関係さえ、
持っていたくないような、
どんなつながりでも、
耐えられそうにないような、
自分が思うよりも、もっと、
強く嫌っている人のことである。
頑張って ダメで 悩んで
汗流して できなくって
バカなやつだって 笑われたって 涙こらえて
―― MR.LONELY/玉置浩二
―― 玉置浩二 作詞作曲、1997、Sony Records
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- 2019年02月17日 00:12 |
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なるほど、誰とでも仲良くする、
なんてのは、いい心がけと思うけれど、
誰とでも、というときには、
嫌いな人が含まれている。
仲良くできないゆえに、
その人は、嫌いな人なのに。
誰とでも、というときには、
誰とでも仲良くしたいわけではない、
と思っている相手を含んでいる。
さらには、誰とも仲良くしたくない、
と思っている相手を含んでいるから、
結局、仲良くしてもらえないことになる。
嫌いと思う人を、嫌いと思わない、とか、
仲良くしたくないと思う人と、
仲良くしたいと思う、とか、
できないことをすることはできない。
そんなことをすれば、もはや、
自分が自分でいられるような気がしない。
誰とでも仲良くする、なんて、
無理なエクリチュールを選択したときは、
感情を曲げて、感受性を鈍らせて、
きっと、顔つきも、服も、持ちものも、
考え方も、話し方もありきたりで、
つまらないパッケージが求められるだろう。
そんな人は、憶えるより先に、忘れてしまう。
好きにもなれないし、嫌いにもなれない。
自分が思うより 恋をしていたあなたに
あれから思うように 息ができない
あんなに側にいたのに まるで嘘みたい
とても忘れられない それだけが確か
―― Lemon/米津玄師
―― 米津玄師 作詞作曲、2018、Sony Music Records
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- 2019年02月16日 00:24 |
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どこからか、薄っぺらい、なんて、
お決まりの台詞が返ってきそうだ。
きれいごと、なんて、
ひと言で片づけて馬鹿にする。
斜に構えて、深刻ぶっているほうが、
よほど利口っぽいし、
あるいは、正面から取り組まずに、
嘲笑しているほうが楽ちんだ。
本気を出していないふりをして、
言い訳を用意しているのなら、
恥をかかなくても済むし、
薄っぺらいきれいごとなどしなくてもいい。
しかし、薄っぺらいきれいごともできなくて、
どんなに立派なことをするつもりか。
毎日の人知れぬ苦労や淋しみも無く
ただ楽しいことばかりだったら
愛なんて知らずに済んだのにな
―― 花束を君に/宇多田ヒカル
―― 宇多田ヒカル 作詞作曲、2016、Virgin Music
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- 2019年02月15日 00:07 |
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