「性格は運命である」とノヴァーリスは言った、
ってことになっているらしい。
まるで、ノヴァーリスがそう言うまで、誰も、
「性格は運命である」ことに気づかなかったみたいだ。
甲本ヒロトは「人にやさしく」と歌ったけれど、
その歌詞が巷間に受け容れられたのは、すでに、予(あらかじ)め、
歌詞の意味が、巷間に流布していたからである。
甲本ヒロトが「人にやさしく」と言ったように、
ノヴァーリスは「性格は運命である」と言った。
それなら、それで、よくあることだが、
ノヴァーリスの場合は、少々、事情が違う。
「性格は運命である」とノヴァーリスは言った、
―― とトマス・ハーディが言った。
人々は、誰もが知っているハーディを通して、
あまり知られていないノヴァーリスがそう言ったことを知る。
小説「カスターブリッジの市長」で、
ハーディは、ノヴァーリスを引く。
Character is Fate, said Novalis,
and Farfrae's character was just the reverse of Henchard's, ……
性格は運命である、とノヴァーリスは言った。
Farfrae の性格は、Henchard の性格のまるで逆だった。……
―― The Mayor of Casterbridge/Thomas Hardy

げみ
ハーディが意訳したのは、おそらく、
ノヴァーリスの小説「青い花」の、このフレーズ、
daß Schicksal und Gemüth Namen Eines Begriffs sind.
心情と運命とは、同じひとつの概念を表わす名前だ。……
―― Heinrich von Ofterdingen/Novalis
性格は運命である、なんてのは、すでに、
紀元前のギリシアで流布していたフレーズで、
とりわけ、誰が言った、なんてものでもないが、
ともかく、性格と運命を等号で結んでいるに過ぎない。
それは、人の性格は運命によって定められている、
という意味にも取れるし、
まるで逆に、性格がその人の運命を作っている、
という意味にも取れる。
その人は、その人がするようにしかできない、
という意味にも取れるし、
ということは、その人は、その人がするようにできる、
という意味にも取れる。
違いは、その人の、心情、だけなのかもしれない。
改めて、ノヴァーリスを引こう。
心情と運命とは、同じひとつの概念を表わす名前だ。……
―― 青い花/ノヴァーリス作品集 第2巻 青い花・略伝
―― /今泉文子 訳、2006、ちくま文庫
抱きしめるふりして 抱きしめてもらってた
愛するふりして 愛してもらってた
―― おあいこ/ハナレグミ
―― 野田洋次郎 作詞作曲、2015、Victor Entertainment
テーマ:哲学/倫理学 - ジャンル:学問・文化・芸術
- 2021年04月22日 00:00 |
- 運命論
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