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qinggengcai

骰子一擲(とうしいってき)


今、君の肩の上に舞い降りた雪の一片、
その中に水素の原子が1兆個あったとする。
数は適当だ、
1兆の1億倍でも、10億倍でも構わない。

1兆の水素の辿ってきた途はすべて異なるが、
共通することが2つある。
始まりは、宇宙の始まりとともに、
終わりは、君の肩の上に舞い降りた。

その途中、
それは、宇宙に投げ出された1兆の水素が、
君の肩の上で融けて、
再び出会うまでの出来事。

再び出会った1兆の水素に、
確率を問う者はいない。
以上でもなく以下でもなく、
一様に同じだけ偶然であるだろう。

君は、君の肩の上で、
1兆の水素が出会う偶然を、
無防備に見守るほかはない。
おそらくは、140億年ぶりだ。



    ……
    それが
    /星として生れた
         数であるならば
         それは存在するにしても
         /断末魔のとりとめない幻覚とは別に
         それは始まりそして止むにしても
         /現われるや否定され閉じられるのではあるが湧き出て
         /結局は
         /夥しくも拡散してまばらになり
         それは数えられるにしても
         /単位でさえあれば総計による明証として
         それは照らすにしても
    それは
    /もつとわるい
    /いな
    /以上でもなく以下でもなく
    /一様に同じだけ
    偶然であるだろう
    ……

    ―― 『骰子一擲』/ステファヌ・マラルメ著、秋山澄夫訳
       1991、思潮社



存在と時間、それらは並立ではなく、
時間はすでに存在であり、存在はみんな時間だ。
存在すなわち時間とするのなら、
経歴はその本質になる。

では、
水素1粒の独自性は、
水素1粒そのものに在るのではなく、
そのものの経歴にある。

例えば、星になり、月になり、
塵になり、海になり、空になる。
海月(くらげ)になり、花になり、蝶になり、
猫になり、人になる。

10,000年凍り、2,000年沈み、
10日間空に舞う。
結び、離れ、映し、考え、歩き、
燃え、燃やし、燃やされた。

宇宙の始まりから、君の肩の上まで、
君が水素1粒の軌跡を想えば、
君は宇宙の中心から、宇宙の片隅の地球までを、
描き出す画布を得るだろう。



今、また君の肩の上に、
一片の雪が舞い降りた。







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  1. 2014年02月18日 22:01 |
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  4. | コメント:8

コメント

青梗菜さん、こんばんは!!^^

          ,ー、   __    ,ー、     
        . / ヘ 〉, -´ー・ー 、 `ヽ/ ヘ 〉   
         .〈〈./: : : : : : i : : : ヽ〈〈 ⌒ヽ   
        i :/,: : : 人: : :ト、: : : : : :゛ : : :.i むじゅかしー。^^;ソレダケm(__;m
        !〃: :/ .ヽ :!  ヽ: : : : i、: : : |   
        |レ! / ●   リ ● ル: : !┐ : : |  
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー―=-―一’ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    ∬   _________________
    旦  (__________(___  ___(ノ
.                             \\ 
                               ̄
  1. 2014/02/19(水) 02:22:05 |
  2. URL |
  3. くわがたお #-
  4. [ 編集 ]

雪が降ったので、
物理に情緒を持ち込んでみました。
それだけw。
  1. 2014/02/19(水) 11:19:48 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

田中芳樹のSF小説にこういうのがあります。

――敵に追われて追い詰められた男女は、タイムマシーンで原初の海に、自分たちの躰をアミノ酸に分解して散布した。アミノ酸は生命を生み、生物は進化して人類が生まれた。そして、ある男とある女が出逢った。初めて逢うのに、どこかで逢ったような気がした。それは原初の海のなかで逢っていたのかもしれない。そんなことは知らず、彼と彼女は恋に落ちた。

詩における偶然性は、「宇宙の始まりから、君の肩の上まで」存在できる水素を仮構することで、必然性に変わるような気がします。
それがポエジーの力でしょう。
しかし、小説の場合、あまり偶然性に頼っていると拙いものになってしまいます。
そこでアミノ酸であったり、タイムマシーンであったりという工夫が必要となるわけです。

青梗菜さんの詩は――ちょっとだけどマラルメも――、わたしに詩と小説の偶然性について考える、よい切っ掛けとなりました。
いや、実に素晴らしい詩です。
  1. 2014/02/19(水) 13:32:36 |
  2. URL |
  3. 瀧野信一 #-
  4. [ 編集 ]

チンゲン菜の本領発揮かな。
メルマガ、猫でも、こうやって、人を煙にまいてた。
とうしいってき、ってどういう意味でしたっけ?
さりげなく、blog村のバナー、今3位か。
うちは、Art innというところのバナー貼ってあるけど、もう、Art innというところもダメ。会員制だけど、誰も書き込まない。
  1. 2014/02/19(水) 23:10:08 |
  2. URL |
  3. oki #-
  4. [ 編集 ]

瀧野さん、こんにちは。

よだれでも、うんちでも、
僕たちがひとまとまりと思える水分があるところには、
成り立つ話ですけどw。
肩の上で融解する雪は、ポエジーが小さく炸裂しますね~。
人の体温で融かすからでしょうか。

このパターンでいうと、
すでに死滅した星々の光だけが地球に届いて、君の網膜で出会う、
ってのもポエジーがスパークしそうです。
人の水晶体を射抜くからでしょうか。

窓ガラスの水滴や、
夜空をぼんやり眺めてしまう理由は、
出会いを祝福しているからかもしれません、
そんなのは、読み手に任せますが。
  1. 2014/02/20(木) 11:38:33 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

okiさん、こんにちは。

骰子一擲、サイコロのひと振り。
僕たちの棲む世界は、
いつもいつもサイコロが振り出されていて、
始まりと終わりだけがあって、
途中はどこにも保存されていない、
ということを雪の一片に思ったわけです。

雪の一片にも、世界が現成するというのなら、
僕の解釈は、宇宙の始まりまで持っていくこんな発想になります。
雪が融けるのを観てなにかを想った、
そんな軽いものだと思うのです、
いわゆる、悟りってのは。
  1. 2014/02/20(木) 11:41:10 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

≪…君は宇宙の中心から、宇宙の片隅の地球までを、
描き出す画布を得るだろう。…≫を【干渉のモアレ】とするのが、
[言葉]と⦅自然数⦆の≪…時間はすでに存在であり、存在はみんな時間だ。…≫に。

令和2年10月25日付朝日新聞【天声人語 …「鬼の行水」には、身体の汚れは落とせても心の汚れは落とせないという風刺が込められているらしい…】で絵本「もろはのつるぎ」の『鬼』(妖怪)からの[点・線・面]による[円]へのメッセージは、
『止まる事の出来ない直線(半径)が、止まっているように観える(中心)と止まれない端で常に直線と出逢い(角付け(i))し無限の[点]を生み出して[円]なる[平面]を生む。』  
  であり。
 [ながしかく](『自然比矩形』)では、 『[角付け(i)]された、二直線で「角付け(i)された、[長方形]を[静止]し続けさせる[エネルギー(エンテレケイア)]が数の言葉(自然数)を生まれさせる。』
  である。

前者は、[直線(半径)](1)と[円周](2π)の関係であり、
後者は、[平面]の[直交比]と[直線比]との関係が⦅自然数⦆を創る。

[円]は、≪…時間はすでに存在であり、…≫の【動的】な[かたち]であり。
『自然比矩形』は、≪…存在はみんな時間だ。…≫の【静的】な[かたち]である。

 【鬼】の外の水(行水)ではなく、【鬼】の内の水になってみたい・・・ 

  1. 2020/10/26(月) 10:24:01 |
  2. URL |
  3. 言葉の量化と数の言葉の量化 #mnNq5YWQ
  4. [ 編集 ]

言葉の量化と数の言葉の量化さん、こんにちは。

>【鬼】の外の水(行水)ではなく、【鬼】の内の水になってみたい・・・
たぶん、僕は、問題を共有できていないと思いますがw、
それっぽいことを考えたことはある、ような気がします。

円を観ているというそのこと、
僕は、円にそのこと自体を観てしまう。
たぶん、僕は、とんちんかんだと思いますがw。

http://qinggengcai.blog2.fc2.com/blog-entry-754.html
  1. 2020/10/26(月) 10:57:10 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #De6CjWPI
  4. [ 編集 ]

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